患者さんの声

腹壁ヘルニア手術の患者体験談|新しい補強材で圧迫感が消失

新しい補強材で圧迫感が消失

ディーン・リチャードさん
(62歳・男性・埼玉県)

私はかつてアメリカ海軍に属し、40年以上も前に横須賀に勤務していました。カリフォルニア州出身なので、その後アメリカに帰って会社勤めを始めましたが、その会社が日本にオフィスを開設するというので、再び日本に戻ることにしました。そして1993年、鎌倉からさいたま市へ引っ越してきたのですが、その年に交通事故に遭ってしまったのです。

私はもともとバイクが大好きで、このときもバイクを運転していて時速100キロ以上で走ってきた自動車と衝突したのです。バイクは真っ二つに壊れましたが、幸運にも小さな外傷ですみ、骨折もありませんでした。でも事故後ずっと、お腹に泡がたまったような違和感が続いており、いま思えば、打撲傷によってヘルニアの症状が出ていたのです。

趣味の重量挙げで腹部が突出

ついに我慢ができなくなって、さいたま市の病院で診てもらいましたが、不運なことに、この病院の治療が適切ではなかったのです。ヘルニアを治療するとき、縫い合わせた部分に強い緊張がかかるため激しい痛みを引き起こすのです。そこで自分であれこれ調べて2年後の1995年、カリフォルニアの病院に行きました。先の手術がひどすぎたので、緊張の少ない人工補強材を使う手術を受けるためでした。

手術をしてくれたのはアメリカ人の外科医でしたが、手術は結果的に失敗に終わりました。実は私は重量挙げの競技を楽しんでいますが、お腹に力を入れたとき悔しいことに、いったん治っていたヘルニアが外に飛び出してしまったのです。つまり再発です。そのときの痛みと悔しさには参りました。とにかく腹部が突き出してきたのでびっくりし、見た目もひどかったからです。

交通事故のけがと重量挙げ競技が重なったためか、腹部ヘルニアはだんだん進行しているようでした。友人にも「そのお腹は、どうした!」とびっくりされる始末です。しかし日本でビジネスをしていますから治療のためにアメリカまでは帰りにくく、「これだけの人口をかかえた日本だから、きっと良い医者はいるはず」と信じて懸命に探しました。そして大阪に良さそうな病院を見つけのですが、「この巨体では手術は難しい」と断られてしまいました。

それでニューヨークにいる知人のカナダ人医師に「だれか日本に住んでいる良い医者を知らないか」と聞いたところ、紹介してくれたのが以前同僚だったという東京慈恵会病院の三澤先生でした。最初からこの先生に出会えていれば、カリフォルニアへ行く必要もなかったのです。日本でテンション・フリーの手術ができる医師がいるなんて、思いも寄らないことでした。

体形も戻りバイクを乗り回す

こうして2004年、三澤先生に手術をしてもらうことになったのですが、お会いした直後から「ああ、この医師なら大丈夫だ」と信頼感がわいてきました。先生は術前も術後も細かく丁寧に説明してくれたので、私の妻も安心し希望を持って看病に当たれたようです。どんな手術にも常に不安が付きまとうものでしょうが、三澤先生だけは別でした。

皮下脂肪が多いと手術が難しいそうですが、三澤先生に手術してもらう時点では体重も減り始めていましたし、筋肉を単に押し戻すのではなく、新しい人工補強材を使ってくれたので今も圧迫感などは全く残っていません。

手術を受けるときは、患者は医師と良い関係を築くことが大事だと言われます。医師は強い意思をもって患者を治療してくれるのですから、患者側もただ受身になって任せているだけでなく、最大限の尊敬の念をもって治療に協力しなければなりません。

いま私は62歳ですが、体には何の問題もなく、毎日をとても活動的に過ごしています。趣味の重量挙げ競技もテンション・フリー法(メッシュ法)がなければ続けられなかったことでしょう。ジムには私よりずっと若い人もたくさんいますが、みんなに負けずに頑張っています。この競技はお腹に力を入れなければならないので、とてもテンションがかかりますが、もう平気です。

それに毎日、ハーレーダビッドソンの1400ccのバイクに乗って走り回っています。三澤先生の手術のおかげで完全に元の生活に戻ることができました。QOLから見ても申し分ない状態です。腹部ヘルニアで最もつらいのは、痛みよりも見た目なのです。重量挙げ競技では、挙げる重量だけでなく体の形もとても大事なのです。だからこの手術を受けて、とても満足しています。

【担当医からのひとこと】

腹壁ヘルニアの再発を防ぐ人工膜

三澤 健之 みさわ たけゆき
東京慈恵会医科大学
外科学講座 准教授
肝胆膵外科 医長

開腹手術後の合併症としてよく見られるのが、腹壁瘢痕ヘルニアです。胃がんや大腸がん、虫垂炎など元の病気は治ったのに、術後しばらくして縫い合わせたはずの腹壁がだんだん緩んできて臓器が飛び出してくるのです。ヘルニアとは、臓器の一部が本来あるべき場所から逸脱することで、腹部では腹壁の裂け目から腸などの内臓が皮膚をかぶった状態で飛び出してきます。ほとんど痛みはありませんが、見かけが良くないので気になります。お腹に力を入れると内臓が飛び出すので、スポーツをする人には深刻な問題です。また、開腹手術をしたことがないのに腹壁ヘルニアになる人もいます。これは腹壁の弱い部分(おへその近くが多い)が腹圧の影響で次第に緩んでくるためと考えられています。リチャードさんの場合も手術とは無関係ですが、交通事故による腹壁の障害が原因で起こった腹壁ヘルニアでした。いったん出来てしまったヘルニアは自然に治ることはなく、完治には手術が必要です。最近は弱い筋膜を補強する人工膜が改良されたおかげで、よく治るようになりました。

手術は皮膚、皮下脂肪、腹筋の順にメスで切っていき、臓器を押し込んでから裂け目を内側から十分にふさぐ大きさの人工膜(メッシュ)を入れます。周りにコイルが入っている人工膜は、柔らかく広がって内臓の脱出を防ぐのです。お腹に癒着などがなければ手術は1時間半ほどで終わります。リチャードさんは今も腹圧のかかるウエイトリフティング競技を楽しんでいるようですから、すっかり快復したのですね。

■ テンション・フリー手術「メッシュ法」


写真上:人工補強材の表面
写真下:人工補強材

以前にお腹の手術を受けた人が起こすヘルニアを「腹壁瘢痕ヘルニア」という。手術のとき出来た傷跡(手術創)の組織が弱くなることなどにより、皮膚の下まで腸などの内臓の一部が突き出してくる病気であり、不快感や痛みを除くために手術が必要となる。腹膜や筋膜、腹部の筋肉を縫い合わせると患部に過度の緊張がかかって、術後に痛みやつっぱり感が生じる。そこで弱った筋膜や筋肉を人工補強材(ポリプロピレンや延伸PTFE製メッシュ)で補強する、緊張のかからない(テンション・フリー)手術法が考案された。

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