患者さんの声

パーキンソン病手術の患者体験談|両胸の皮下にパルス発信器

両胸の皮下にパルス発信器

E.M.さん
(60歳・女性・東京都)

いま思い起こせば44歳の1993年3月、テニスをしているとき右肩がチクっと痛んだのが最初の症状だったのかも知れません。だんだん肩が重くなり、やがて手がこわばるようになり、コーラスの先生から「もっと表情を出して歌って!」などと注意されたりもしました。さらに足が重くなり、体全体がだるくて我慢できなくなりました。この間、四十肩やリウマチなどを疑って、いくつかの病院でMRIを採っても、診断はいつも「異常なし」。

最初に異常を感じてから1年目、近所のスーパーの入り口でつまずいてしまいました。右手のこわばりが一層ひどくなってフライパンも持てなくなり、台所仕事が難しくなってきました。そこでさらに別の病院にかかりましたが、やはり異常は見つかりません。私は思い余って「先生は何でもないとおっしゃいますが、現実に具合が悪いのです」と言い放って診察室を飛び出してしまいました。やがて道を歩く速さが落ちてきて、電車に乗り遅れたり、人との待ち合わせにも遅れたりするようになりました。

有効かどうか念入りチェック

「もうどうしようもない」と観念して5番目に訪ねた病院の整形外科医が「完治しないかも知れませんが、神経内科を紹介しましょう」と東京医科歯科大学あてに紹介状を書いてくれました。そこで初めて「MRIでは異常は認められませんが、パーキンソン病ですね。完治は難しくても、服薬すれば少しはよくなるでしょう」と言われました。このときは心底ほっとしたものです。やっと病名が分かったからです。そこで処方していただいたドーパミン受容体刺激薬1錠で、スーッと体が軽くなりました。

でも、本を調べて「進行性の難病で治らず、10年で寝たきりになる」と知って不安がつのりました。3カ月後からLド―パ剤などを飲み始め、2005年には1日に合わせて6種類の薬を合計15錠も飲むようになっていました。そして2006年の夏、主治医である東京医科歯科大学の神経内科の先生に「手術をしてみたいと思います」と私の方からお願いしてみたのです。すくみ足の症状が続いており、Lドーパ剤を服用しても数時間で効果が消えるようになり、幻覚が出始めていたからです。

すると先生はその場で、脳外科の先生を紹介してくださいました。しかし東京医科歯科大学付属病院では、まだこの手術はしていないということで、さらに日本大学の先生を紹介してくださったのです。「これで万全」と思ったのもつかの間、私はヘルニアの手術をしたり、腸骨を骨折したりで入退院を繰り返すことになり、日大の脳外科へ行くのが2007年2月になってしまいました。

私の様子をご覧になって先生は「あなたのタイプには手術が効くはずです」と言ってくださいました。私はとてもうれしくなり、4泊5日の検査入院で脳深部刺激療法(DBS)の手術適応があるかどうかのチェックを受けました。運動症状の日内変動が激しいこと、薬物による運動症状のコントロールが困難になっていることが認められ、手術を受けることが決まりました。このときは「ああ、これで体が柔らかくなるのだ」と舞い上がりそうな気分でした。しかし腸骨の骨折がきちんと治っていなかったので、6月まで待って手術を受けたのです。

手術より方策がないと決断

脳の手術ですから、いくらかの不安はありました。しかし前もって手術の方法について私や家族に図や模型を使って説明してくださったので、納得できました。手術は「脳深部刺激電極挿入術」で、X線写真とMRIで確認しながら左右の視床下核に電極を挿入し、そのあと胸の皮下に刺激装置(パルス発信器)を植え込むのです。「この手術は症状の重い部分を底上げするものですから、パーキンソン病そのものは進行します。そのため刺激条件や薬の調節のため通院していただきます」と何回も念を押されましたが、たとえ治らなくても、手術以外に元気になれる方法がないならば仕方がないと思いました。

手術を受けてからは、左胸の皮膚がつるような感じが残りましたが、パーキンソンの症状はほとんど消えました。すくみ足がなくなり、寝返りがうて、顔の表情がよくなり、話し方も声が大きく早くなり、精神的に明るくなり、またエネルギッシュになりました。治療直前は、まともに動けるのは1日に合計3~4時間で、あとは横になっていましたし、寝返りが打てないので夜は1時間半ごとに体位を変えていました。それを思えば、まさに夢のようです。

DBSは素晴らしい手術でした。医学の進歩はすごいなと感心しています。日大ではもう500例を超えているそうですが、他の病院でも受けられるようになればいいと思います。なお入院期間は、私は15泊16日で、手術費用は健康保険などにより2万3100円で済みました。

今は子供や孫、犬を含めた家族との触れ合いが楽しく、趣味のコーラスに通っています。この病気は手術をしたからといって治るわけではありませんし、進行を止めることもできません。でも、与えられえた運命、私に何ができるのか考え、前向きに生きていきたいと思います。これからも神経内科医と脳外科医と患者とがよく相談し、QOLを高めることができるようにコミュニケーションが取れたらと考えています。

【担当医からのひとこと】

底上げ効果で自立生活を続行

深谷 親 ふかや ちかし  先生
日本大学医学部脳神経外科
応用システム神経科学 准教授

パーキンソン病は、手足が震えたり体がこわばって動かなくなる病気です。「ドパ」という薬が治療の中心となりますが、長期服用していると、効果の持続時間がだんだん短くなって、薬が効いて動ける時間(オン)と、切れて動けなくなる時間(オフ)を繰り返すようになります。また副作用として、幻覚やジスキネジア(不随意運動)もしばしば出現するようになります。

薬物療法が限界に達した患者さんには、脳深部刺激療法(DBS)がしばしば有効です。これは細くて柔らかい電極を脳の中に植え込み、電気刺激を持続的に脳深部に送る治療法です。この治療が奏功すると、オフの状態をオンの状態まで底上げし、終日オンの状態を維持できます。ただ、オンの状態でも寝たきりに近いところまで進行した患者さんには、効果は期待できません。

なお、手術後には薬の減量が可能となるので、副作用に悩まされていて薬を減らしたい患者さんにも、大きな助けとなります。E.M.さんの場合、オンとオフの差が大きく、オンのときはほぼ自立生活が可能でしたから、底上げ効果が期待でき、またジスキネジアもみられたので薬の減量による改善も期待できました。

ただし、この手術には2%程度の脳内出血の危険があります。また認知症やドパを減らしても改善しない精神症状のある患者さんは、術後に増悪する危険もあるので注意が必要です。しかし、パーキンソン病は何も手を講じなければやがて寝たきりとなる可能性が高いので、E.M.さんと同様の症状の方は、一度DBSの適応を検討してみた方がよいと思います。

■ 脳深部刺激療法(DBS)


写真:刺激電極と刺激装置

パーキンソン病は薬物療法が基本だが、薬の効果が弱くなったときや、副作用が強く十分な量の薬が飲めないときなどに外科手術が試みられる。その1つが電気刺激による「脳深部刺激療法」だ。頭蓋骨に10ミリちょっとの大きさの穴をあけ、細い電極を挿入して脳の深部に刺激電極を植え込む。病気の進行に合わせて刺激量が調整できるというメリットがある。しかし、外科手術は症状を軽減しても病気を治すわけではないため、手術後も薬と併せて治療を行うのが一般的。

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