患者さんの声

先進医療技術とは__体にやさしい医療(検査・ 診断 ・治療)の価値とその課題について

先進医療技術とはいったいどのような技術を言うのでしょうか?

こう聞かれると、何だかとても難しい技術のようなイメージがありますが、一つの答えはこのように言うことができます。それは「体にやさしく、人の命を救い、確実な診断を可能にし、治療後の患者さんのQOLが向上する」技術です、と。

体に負担の少ない、体にやさしい治療法

たとえば、いまや日本人の死因の第2位を占める心疾患の中でも、高脂血症や動脈硬化症などによって心臓の筋肉に血液を送る冠動脈が詰まって心筋の壊死を起こし、急性の場合突然死にもつながる心筋梗塞という病気があります。現在、心筋梗塞の多くは、足の付け根や腕の動脈からカテーテルと呼ばれる細い管を通し、冠動脈の詰まった部分にステントと呼ばれる網状の金属の筒を留置し、詰まった部分を拡げることによって治療するPTCAあるいはPCIという血管内治療法が主流になっています。一方これまでの心筋梗塞には、内科的に薬で治療されるか、あるいは開胸手術という、体に大きくメスを入れ、その詰まった冠動脈の前後に体のほかの部分からもってきた血管をつないで血液を迂回させる心臓バイパス 手術という方法も多く行われてきました(現在でもバイパス手術の方が患者さんに適していると判断されれば、この手術が選ばれます)。バイパス手術による治療を受けた患者さんは1カ月ほど入院が必要なのに比べ、この血管内治療法を受けた患者さんは数日のうちに、長くても1週間前後で退院して、早期に元の社会生活に復帰できるというメリットがあります。それは開胸ではなく、足の付け根などに小さな穴を開け、そこの血管からカテーテルを入れるという低侵襲(体への負担が少ない)治療のおかげで、痛みが少なく、また回復するのが早い治療技術であること、それが体にやさしいという意味です。

人の命を救う技術

また、先進医療技術は、人の命を救うことができる救命の技術であるということもできます。先に述べた冠動脈血管の細くなった部分にステントを留置するPTCAあるいはPCIという方法もそれによって急性心筋梗塞で突然死をしたかもしれない患者さんの命を確実に救っています。そして救命の先進医療技術といえば、徐脈や頻脈などの不整脈や、心臓の筋肉が小刻みに震えて血液を送り出せなくなる心室細動から命を守っている心臓のペースメーカーや植え込み型除細動器(ICD)といわれる治療機器があります。不整脈や心室細動を起こす可能性のある持病をもつ患者さんにとって一番怖れなければならないのは、心不全による突然死です。ペースメーカーやICDは一種のマイクロエレクトロニクスの最先端の機器と言ってよく、患者さんの胸部皮下に埋め込まれ、リード線が心臓の心室に伸び、もし突然に不整脈や細動が起きた場合にはそれを瞬時に感知し、電流を流すことによって心臓の働きを正常に戻し、救命します。患者さんの体内に埋め込まれたこうした医療機器は普段、一般の人の目に触れませんが、もし一般の方が街中で突然の心臓による発作で倒れ、心停止状態になった時のために、自動体外式除細動器(AED)という器械が駅や空港、公共の大きな施設や一般企業の建物など、人が多く集まる場所に備えてあるのをご覧になった方も多いと思います。先年行われた愛知万博開催期間中に、この器械によって何人もの人命が救われたこともよく知られています。さらには心臓弁膜症で機能不全に陥った心臓弁を人工のものに置き換えることで救命を行うなど、先進医療技術は救命の技術として知られています。

早期発見や確実な診断ができる

先進医療技術の大きな特徴の一つは、病気の早期発見や確実な診断ができることです。いまや多くの病院で、コンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴コンピューター断層撮影装置(MRI)、さらには超音波検査装置などが導入され、これまでメスによって切開してしか見ることのできなかった体内の病変部を手に取るように見せてくれる画像診断機器は、体に負担の少ない、あるいは全く負担のかからない先進医療技術であり、これによって病気の早期発見や正確な診断ができるようになりました。乳がんの検査で使われるマンモグラフィーと呼ばれるX線撮影装置もその一つで、乳がん検診で早期発見に役立っています。さらにPETと呼ばれるポジトロン断層撮影はがんの病変部を突き止め、診断することでよく知られています。近年、こうした画像診断機器は診断のみならず、その技術の応用によって、子宮筋腫の治療機器としても開発され、日帰りで無痛の低侵襲の治療ができるようになるなど、最適な治療法の選択にも役立っています。

病気の迅速で正確な診断は、画像診断機器だけではなく、体外診断用医薬品と呼ばれる一連の診断薬によっても行われます。女性特有の疾患である乳がんや子宮頸けいがん、男性特有の疾患である前立腺がんの診断マーカーとして、体外診断薬がそれぞれ重要な役割を果たしています。また通常、診断薬による検査は数日後に結果が出るなど時間がかかるのが普通ですが、胸の痛みで救急車によって病院に運ばれる人が心筋梗塞かどうかをその場で判断するために、心筋梗塞の診断マーカーによって迅速に診断され、早い処置や救命に役立つような、POCTと呼ばれる臨床の現場ですぐ結果が出る診断薬も多く出ています。さらには遺伝子レベルでの検査ができる遺伝子診断(PCR)機器も開発され、さまざまな分野に貢献しています。

QOL(Quality of Life:生活の質)の高い生活

このように見てきた先進医療技術といわれるさまざまな医療機器や診断機器・診断薬は、何より、病気になった患者さんのために、最先端の医療の技術を結集して開発されたものです。それは一昔前では、信じられなかったようなことを実現しています。この本の中でも採り上げられている、たとえば、関節リウマチや変形性の股関節症で、ひざの関節が変形したり、腰の関節が磨り減ったりして、痛みのために歩行も困難になった患者さんが、人工膝関節や人工股関節によって、普通に歩けるようになるのはもちろん、諦めていた水泳やゴルフなどのスポーツを楽しめるようになるなど、充実した人生を取り戻すことができる技術です。また薬物療法ではなかなか効果が見えないパーキンソン病の患者さんが、脳内に電気刺激を与えることによって普通の生活を送れたり、脳動脈瘤の破裂を予防するために、開頭しないでカテーテルを使った血管内療法で脳動脈瘤にコイルを入れ、不意の破裂を防ぐ。また、歳をとることによって多くの人に起こる白内障という病気は、眼の水晶体が白濁し、見えにくくなる病気ですが、昔はその治療法はなく、見えにくいという不自由な状態を我慢し、日常の活動も大幅に制限される生活を送るしかありませんでしたが、今は眼内レンズという人工水晶体を入れる手術によって、それも日帰りできる低侵襲の治療法によって、元のようにはっきりと世界が見えるようになりました。多くの方が、こうした人工の関節や水晶体によって、恩恵を享受し、QOLを高めた生活を送ることができるようになりました。さらには腎臓病の患者さんのための人工透析や日帰りもできるヘルニア手術など、この本で採り上げられている技術はその一部ですが、先進医療技術が貢献する分野は多岐にわたっています。

つまり、先進医療技術とは、患者さんにさまざまな恵みをもたらす価値をもっているものと言えます。病気の早期発見、確実な診断、最適な治療法の選択を実現するだけでなく、傷や病気の治療の際に体への負担が少なく、痛みを軽減し、そして入院期間の短縮にも役立ちます。また患者さんの救命に貢献し、予後やQOLの向上を実現するものです。その結果、患者さんは早期の社会復帰が可能となり、患者さんの家族の精神的・経済的負担も軽くて済むとともに、本人の生活が元通りにできるようになる技術と言えます。

先進医療技術の解決しなければならない課題

ところで、こうした先進医療技術にもいくつか課題があると言われています。それは、すでに世界の各国で標準的に使われている多くの医療機器や診断機器・診断薬の恩恵を、日本の患者さんは必ずしも享受できていないということです。最近の調査【注1】によれば、抗がん剤と同様に、海外で標準的に使われている先進医療技術のうち、日本に入ってきているのはおおよそ半分ということです。それにはいくつか理由がありますが、一つは日本の医療制度の中での国による規制の問題があると言われています。

世界標準の医療機器を日本の患者さんが使えない「デバイスラグ」の存在

日本は医薬品や医療機器などの医療の分野に限らず、食品やその他の分野においても、世界で最も安全性に厳しい国の一つと言われます。それは日本の国民の健康を考える上では大変に重要なことです。政府や行政は、薬事法という法律によって、新しく市場に出る医療機器が人体に安全であるかどうかを試験した結果を審査し、患者さんに使うことを許可します。

しかし、成分や化学式の全く異なる医薬品の新薬と違って、医療機器は一度認可されたものの一部を部分改変し、新しい材料を使ったり機能を加えたりすることで、さらに治療の効果が出るものにすることが多いのです。そうした一部の改良を加えたものでも、治験といわれる安全性を確認する試験を一からしなければならない場合もあります。またすでに欧米では何年も使われていて十分に安全性が確立されていても、日本に輸入して使うためには、こうしたさまざまな規制のため承認まで早くても数年、長いものでは10年近くの時間がかかることもあると言われています。

またここにはそうした規制だけの問題ではなく、私たち日本人の安全性についての考え方が大きく影響していることも事実です。私たちは医療や食品に100%の安全を求めますが、科学的には100%安全ということはありえません。しかしその100%の安全を求めて、長い時間をかけ試験をするうちに、海外ではどんどん新しい医療機器が開発され、日本には古い世代の機器が遅れて入ってくる(この状況を「デバイスラグ」と言います)、すなわち日本の患者さんは最先端の医療が受けられない事態が生まれています。そのため、この本でも紹介されている腹部大動脈瘤の患者さんのように、世界の最先端医療を求めて海外の病院に渡る患者さんも少なくありません。これがひとつの大きな課題と言われています。

国民医療費全体のコストを削減するために

もう一つ、こうした先進医療技術は、「高価」であるといわれて、常に増え続ける国民医療費を押し上げている元凶のように言われています。しかし、これらの先進医療技術の市場規模は、総医療費の数%に過ぎず、その影響は全く大きくありません。それ以上に、これまで述べてきたように、先進医療技術によって、患者さんは体への負担が少ない治療を受けることができるため社会に早く復帰し、生産活動に戻ることができます。そのため入院期間の短縮、さらには、生涯で見た場合の医療費の大幅軽減が実現できます。しかも早期の社会復帰を果たすことで、患者さんの家族の精神的・経済的負担も軽減させます。たとえばある試算【注2】では、心筋梗塞で入院した患者さんのPCIによる手術費用や入院費用は、これまでの開胸による心臓バイパス手術に比べ、年間で1948億円も医療費を削減する効果があると言われています。これには患者さんの家族の時間的・経済的・精神的な負担は含まれていません。

日本は現在、世界で最も高齢化が進んだ社会であり、2025年には65歳以上の高齢者が全人口の25%を占めるようになると予測されています。厚生労働省が2008年8月に発表した「2006年度国民医療費の概況」では、国民医療費は約33兆円で、国民所得に占める国民医療費の比率は8.8%、そのうち65歳以上の高齢者の医療費に占める割合は51.7%で、その一人当たりの国民医療費は64歳以下の約4倍という数字が出ています。このように高齢化が進む社会においては、同じ治療をするにも、体にやさしい、低侵襲の治療法にすることで、入院期間を短縮し、患者さんも社会復帰が早くでき、高齢の患者さんも介護や介助を必要としないQOLの高い生活を送ることができるようにするため、先進医療技術の導入が日本社会全体の生産性を高めるために不可欠なものであり、国民医療費全体のコストを削減することができる「解決策」の一つとなります。先の心筋梗塞の治療費の例でも分かるように、こうした先進医療によって、トータルにかなりの医療費を削減することができるのです。単に「高額」である面だけで判断するのでなく、それによって生み出される「価値」を評価することが重要であると指摘されています。

日本の医療をよりダイナミックに、よりよい方向へ

最後に、日本の医療は、世界の先進各国の国民医療費と比較して格段に低い支出によりながら質の高い医療が提供されていると言われています。2007年のOECD(経済協力開発機構)の医療費の国際比較では日本の1人当たりの医療費は加盟国30カ国中で19位、先進7カ国では最低でした。しかし、その実態は、この近年の医療制度改革の議論の中でよく言われる、人口に比しての医師や看護師数の不足あるいは偏在、救急医療の確保の問題など、現在、日本の医療制度は大きな曲がり角に来ていると言われます。こうしたことを是正し、常に患者さんのためにより質の高い医療を提供していくためには、さまざまな課題を解決する必要があります。たとえば、日本は病院数が多く、それも日本全国に広く散在していることが、医療機器メーカーの製品提供に必要な費用を増加させる要因になっていることがあげられます。このような費用を抑えるためには、たとえば病院の集中化を行い、高度な医療技術を集約することが考えられます。しかし、そのためには患者さんは場合によっては、遠方の病院に行くことも覚悟しなければなりません。一方、日本の国民が自分の身近にいつでもアクセスできる先進医療の施設が必要という選択をするのであれば、そこに必要なコストを国として、また国民がどう負担するかということなども一人一人が考えていかなければなりません。どういう解決策をとるかは、日本の国民・政府が決めることです。

そうした課題の解決とともに、さまざまな医療の無駄を省いて効率化を図り、医療を単なる病気の治療の場としての、コストがかかるのみの特殊な世界と考えるのではなく、医療の世界で働く医師や看護師、技師をはじめ、多くの人々の雇用の場であり、そこで使われる医薬品や医療機器の製造と販売、その企業に雇用される人々、さらにはそうした産業を支える周辺技術やサービスなど、医療を大きな産業としてみた場合の、その経済効果には計り知れないものがあります。こうした産業にヒト・モノ・カネを投資していくことによって、日本の医療をダイナミックに、よりよい方向へ改革することができるのではないかと思われます。

そしてその究極に見えてくるのは、患者さん本位の医療。患者さんが常に医療の中心にあり、体にやさしい、体への負担が少ない治療を選ぶことができ、その後もQOLの高い生活を送ることができる。またいち早く社会に復帰して、家族の介助も必要とせず自立した元の生活に戻ることができる、そして自分の生活を楽しむことができる、そうした姿。それが先進医療技術がもたらす究極のかたちではないでしょうか。

(文責・米国医療機器・IVD工業会 先進医療技術啓発委員会)

注1: 「2008年デバイスラグ調査―審査迅速化に向けた行政の取り組みを支持―」
2008年(在日米国商工会議所(ACCJ)医療機器・IVD小委員会)
注2:「転換期を迎えた日本の医療システム」
1999年(ACCJ、Bain & Company)

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