国際業界動向

「総医療費支出」

掲載:2007年08月

国民医療費は統計を取り始めた1954年以降一貫して増加の基調をたどり、国民皆保険制となった61年からは増加幅が大きくなっています。78年に10兆円の大台を超えてからは毎年1兆円のペースで増加してきましたが、介護保険制度の導入によって2000年からは統計上は減少となる年次もあるものの2003年には31兆5,000億円となりました。このような医療費の増大から厚生労働省は医療費削減(増加抑制)のための各種の施策を行い、また今後も病院の統廃合、医療費患者負担の一部引き上げなどを検討しています。日本の医療費は高額で、しかも増加を続けて高齢化社会が本格化すると医療保険制度が崩壊する-こうした見方が一部にありますが、実は世界的にみると日本の医療費は絶対額では平均レベル、国内総生産(GDP)との対比では“医療費支出の少ない国”に位置しています。

対GDP比、先進国中では下位の日本

OECD(経済開発機構)の調査(ヘルスデータ2006)によると、一人当たりの医療費は2003年で2,484ドルとフランス、オーストラリア、オランダなどと同水準にあります。民間保険が主体の米国は4,940ドル(2004年は5,280ドル)と突出していますが、医療保険制度が全く異なるので単純比較はできません。EC各国と大差のない医療費支出といえますが、国の経済力を表すGDP比では意外にも低位にランクされています。2004年のデータではトップが米国の15.3%、2位がスイスの11.6%でドイツ、フランスと続き日本は21位(統計年次に若干のずれがあります)の8.0%となっています。日本の一人当たり通院回数は飛びぬけて多いことからみて、日本では低コストの医療が提供されていることになります。日本と比較的制度が近いドイツとの比較でも、一人当たり医療費、対GDP比とも20%以上の差があります。高齢化率がドイツ18.8%、日本19.7%であることからみても、この差は大きいといえるでしょう。

財政悪化は医療費が“主因”ではない

国民医療費の推移(資料:厚生労働省)

医療費がこのまま増大すると、医療保険制度が維持できなくなる、国家財政に悪影響を与えるとの意見もありますが、国家財政にとって支えきれないほどの負担にはなっていません。03年の財源別にみた国民医療費(厚生労働省「国民医療費」より)では総医療費31兆5,000億円のうち被保険者負担が29.2%、国庫負担が25.6%、事業主0.9%、患者15.7%、地方8.5%、つまり国庫からの支出は4分の1で、患者負担を合わせた被保険者側の負担のほうがはるかに多いのです。財政の悪化は国、県、市町村の各段階における膨大な公共工事が主因で、医療に対する支出はもっと増大してもいいとする社会経済学者もいます。

QOL向上に予防医学の振興と先進医療の導

厚生労働省は2000年から21世紀の国民健康づくり21(健康日本21)の運動を開始しています。健康寿命の延伸と生活の質(QOL)の向上を目指したもので、予防医学が全面的に取り上げられ、メタボリック症候群への対応なども決められました。予防医学の普及と啓発によって生活習慣病を減少させることは非常に大切なことですが、同時にQOLの向上のため の先進医療の積極的な採用も不可欠です。前述したように、日本の医療費は低く、現在の水準に抑え込むとの必然はありません。先進医療機器の認可が日本では欧米に比較して遅れていますが、総医療費抑制の枠から脱して先進医療部門にもっと費用を投入することが必要でしょう。