国際業界動向

「―新生児の体外診断―マス・スクリーニング タンデムマス法」

掲載:2005年10月

新生児の代謝異常障害の予防が可能

米国の食品医薬品局(FDA)は2004年8月24日に体外診断機器「ネオグラムキット」(NeoGramAmino Acids and Acylcarnitines TandemMass Spectrometry Kit)を新生児マス・スクリーニング用に承認しました。ネオグラムキットは新生児の血中アミノ酸、遊離カルニチン、アシルカルニチンなどを測定する質量分析計(mass spectrometry)であり、タンデム質量分析計(MS/MS)またはタンデムマス法とも呼ばれています。約20万症例規模の新生児マス・スクリーニング臨床評価に基づき承認に至りました。

新生児の先天性代謝異常症は、血中アミノ酸などを測定して早期に発見し、適切な治療を始めることで発症を防ぐことが可能です。米国マサチューセッツ州で1962年にガスリー博士らが始めたフェニルケトン尿症(PKU)のマス・スクリーニングが始まりです。

新生児は、必須アミノ酸であるフェニルアラニン(Phe)をすべて食品(母乳またはミルク)から摂取します。新生児がPheを代謝できずに体内に蓄積すると、その作用により知的機能の発達が阻害されます。この症状をPKUといいます。PKUの新生児は、Phe制限食を一生続ける必要がありますが、生後7~10日以内にPheの摂取制限を始めることで精神遅滞を防ぐことができます。食事制限を早くから良好に維持できると新生児の正常な発達が可能です。 

タンデムマス法で医療費削減が可能日本国内での普及に期待

日本では1977年に公費によるマス・スクリーニングにガスリー法が導入されました。この方法には、擬陽性新生児の発生頻度が高いという欠点があり、年間13万の新生児検体をこの方法で実施しているカナダのオンタリオ州では、1人の陽性新生児を確定するのに9人の擬陽性新生児の再採血と再検査を必要とするために、親に不必要な心労を与えています。タンデムマス法ではこの欠点を解決しただけでなく、従来の測定方法では測定できなかった代謝物質を対象とする検査が可能になり、一挙に20数種類の疾患を検出できる利点があります。患者家族の心労を取り除き、さらに、医療費を削減することも可能です。

日本でのマス・スクリーニングのコストに関して、1985年に日本大学名誉教授の北川照男氏、女子栄養大学小児栄養学教授の大和田操氏が、「1年間のスクリーニングに要する費用は4億4,000万円である。しかし、もしスクリーニングを行なわず、すべてのPKU、甲状腺機能低下症、ホモシスチン尿症の患児の知能が遅れ、施設に収容され教育されると仮定すると、その費用は約22億6,000万円に達すると考えてよい」と発表しています。20年前のデータですのでPKUのマス・スクリーニングはガスリー法で、試算はガスリー法に基づき算出されていますが、いずれにしても医療費削減効果は大きいといえるでしょう。

1994年の徳島大学教授の黒田 泰弘氏、横田一郎氏は「マス・スクリーニングを行うことにより日本全国で発見される患児は重症心身障害から免れ、さらに国全体として年間31億円の純益を得ている」と述べています。島根大学医学部小児科教授の山口清次氏は「タンデムマス法は1台で年間5万件の検査が可能。日本の出生数から単純に計算すると27台あればよいことになる。ただ現在の検査法で分かるガラクトース血症などの3疾患は、タンデムマス法では判定できないので、2種を並行して実施する必要がある」と話しています。同教授は日本でタンデムマス法を実施しているのはまだ10施設程度と述べています。