先進医療をめぐる声

明日の医療を担う体外診断用医薬品(IVD)

小川 渉 氏 ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社 代表取締役社長兼CEO

掲載:2007年12月

小川 渉 氏

体外診断用医薬品(IVD: InVitro Diagnostics)とは、血液・尿・糞便などを検体とした臨床検査に用いられる試薬です。臨床検査の結果は、病気の早期発見、病態の診断、治療方針の決定、予後の判定になくてはならない重要な情報源となります。高精度で多様なマーカーによる検査結果の提供は、患者さんのQOL向上に貢献しますが、患者さんが享受できる利益を鑑みて検査が評価されているか不透明であるという現実もあります。そこで「検体検査費用」「新規マーカー」「遺伝子検査」の3つの視点から、IVD業界が抱えている課題を挙げてみます。

検体検査費用―理解され易い仕組みの必要性

検体検査費用の内訳は「検体検査実施料」「検体検査判断料」「検体採取料・測定に使用する薬材料・特定保険医療材料」の3つに大別できます。IVDが含まれる検体検査実施料は、ここ10年来下落の一途をたどっています。医療機関で実施されている微生物検査や遺伝子検査の場合には、検査収入を上回るコストがかかると言われており、診療報酬の決定・改定が検査の実際のコストを反映しているとは言い難い状況が続いています。一方、検体検査判断料は医師の検査に対するいわゆる“ドクター・フィー”であり、実施料の引き下げとは相反して引き上げが続いていますが、その理由は必ずしも明らかではありません。患者さんに必要な検査が過不足なく提供されるためには、理解されやすい実施料および判断料の仕組みが整備され、なおかつ実施料が著しく不採算な検査項目については保険点数が見直される必要があります。

新規マーカー―科学的根拠で薬事プロセスの簡略化と承認審査期間短縮の必要性

腫瘍、骨粗鬆症、敗血症診断の検査には、現在、未上市ですが、臨床現場から早期上市が望まれている有効なマーカーがあります。しかし、国内の保険点数は新しい有効なマーカーであっても、既存マーカーの保険点数を基準に算定されます。そのため、治験に耐えうるだけの点数が見込めない場合には、高額な費用と時間を要する治験の実施は実質的に不可能であり、製品を上市することができません。優れた製品がありながら、それを多くの患者さんに使用して頂くことができないというジレンマを抱えることになります。例えば海外であっても説得力の高い論文があれば国内治験が不要、もしくは審査過程が大幅に簡略化されるなどの施策があれば、治験にかかる費用と時間を軽減することが可能となります。より多くの有効なマーカーが臨床検査で活用されることで、患者さんのQOL向上に貢献できるはずです。

遺伝子検査―個別化医療推進のために有効なマーカーの発掘と環境整備が課題

遺伝子検査は疾病の早期発見や診断、薬剤の効果および副作用のリスク予測などを通じて個別化医療に大きく貢献することが期待されています。遺伝子検査により患者さん個人に適した治療方法が選択できることで個別化医療が促進されれば、薬剤の最適処方を通して医療費削減に寄与すると伴に、副作用のリスクを軽減することも可能です。しかし、遺伝子検査のように全く新しい診断・検査技術では、臨床的有用性の評価方法が複雑であり長期間を要するなど、保険適用の実現が容易でないことが一部で懸念されています。遺伝子検査を医療に浸透させるためには、疾患に関連した有効なマーカーの発掘が先決であることは言うまでもありません。先進医療制度等の活用でこれら遺伝子検査の早期の臨床開発と運用のためのガイドライン確立や、保険適用ルールの見直し、あるいは個人の遺伝情報の管理と共有化など、新しい仕組み作りやインフラの導入を後押しする環境整備が大きな課題です。

IVDは「予測」「予防」「診断」「治療」「経過観察」と医療の全てのシーンに貢献しています。将来の個別化医療の実現は新しい診断・検査ツールの開発に依るところが大であります。私たちIVDメーカーは、現状の課題を真摯に受け止め、日本の医療の質の向上、患者さんのQOL向上、そしてその結果としての医療経済への貢献のために日々、努力してまいりたいと願っています。